ある本を書くために(題名は「悩む子供を育てる親・才能を伸ばす親」既刊)、以前、ピアニストの辻井伸行氏のお母さん・辻井いつ子さんと対談したことがあります。前回のブログに続いて、母親の養育態度の大切さをお話しするために、この対談についてお話しすることが参考になるでしょう。

お会いした第一印象は、ごく、普通の品のある女性だというもの。ある意味、すごくエネルギッシュだとかオーラをまとわれているという印象はありませんでした。これは悪口ではなく、とても自然体だということです。

いろいろ伸行氏への養育態度をお聴きしても、特別なことは何もせず、自分は,伸行氏から発せられる様々なシグナルを感じ取り、それに答えてきただけだと言われました。

私との応対で感じたことは、私の質問を真摯に受け詰め、自分なりに咀嚼して、ゆっくりと言葉を紡ぎだされる態度でした。その答え方は、良く見せようとか、いわゆる盛るような傾向は少しもなく、ごく自然に、自分の思いつくことを素直な気持ちで話されている印象を抱きました。私は、いつ子さんの、相手をしっかり受けとめ、それに的確に、過不足なく、反応される態度こそが、伸行さんの才能を伸ばしたものと強く感じたのです。

 母親の役目の、最も大切なことは、この子供の発する様々なシグナルに適切に(過剰でも過少でもダメ。いや、少し過剰気味のほうが良いかもしれません)反応あるいは対応することだと考えています。しかも、いつ子さんは伸行氏の育児に没頭されている姿が明らかだったのです。しかも、発見と喜びを持って、没頭されていました。彼女には、些細なシグナルも感じ取れる心の余裕とセンスとがあるようでした。伸行氏は、暖かい確たる対象に抱かれて、安心してのびやかに自らの命と才能を伸ばしていかれたようです。

 何といっても、母親(母親的存在)の子供との向き合い方が、子供がこの世とどのように向き合うかを決めるように思います。

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